競売から家を守るための方法として、リースバックと比較されることがあるのが個人再生の住宅ローン特則です。
個人再生の住宅ローン特則とは、自宅を残して住宅ローン以外の債務を大幅に減額できるという、家を守る手段としては非常に有効な制度です。
つまり「他の借金の負担さえ軽減できれば、住宅ローンだけなら問題なく払える」というケースで活用でき、そのような状況ではリースバックよりも効果的である場合があります。
しかし、この制度は要件が非常に細かく、場合によっては裁判所で認められないことがあります。
では、この住宅ローン特則が認められないケースとはどういったケースでなのでしょうか?
個人再生とは
個人再生は、借金の返済に困窮してしまった際に、裁判所に申し立てることにより借金を大幅に圧縮するための手続きです。
この個人再生には「住宅資金特別条項(いわゆる住宅ローン特則)」という制度があり、”住宅ローンだけは減額せずにそのまま支払っていくことで、家は処分せずに残すことができる”という制度です。
そのため、この個人再生の住宅ローン特則は「他の借金の負担さえ軽減できれば住宅ローンは問題なく払っていける」という方にとっては、自宅を守るうえで大変有効な手段です。
しかし、個人再生の住宅ローン特則には様々な要件があり、申請をしたけど認められなかったというケースも少なくありません。
※制度について詳しくは「個人再生と住宅ローン特則」をご覧ください。
個人再生の原則的な考え方
住宅ローン特則が認められない具体的ケースを紹介する前に、個人再生の原則的な考え方に触れておきます。
原則① 債権者は平等に扱う
個人再生を申し立てる場合、債権者を平等に扱う必要があるため、特定の債権者(借入先)にだけ返済をするということが認められません。
例えば、お世話になった取引先の債務や親族からの借入だけを減額せずに返済するということは認められません。
しかし、住宅ローン特則を適用する場合、例外的に住宅取得のための借入(住宅ローン)だけは残すかたちになります。
原則② 資産額以下には債務を減らせない(プラスマイナス0)
基本的な考え方として、個人再生はあくまでも資産と負債をプラスマイナス0以上には債務を圧縮できません。
例えば借金が1000万円あって資産が全くない場合は、個人再生で1000万円の債務を5分の1に圧縮して200万にすることができますが、500万円分の資産を保有している場合は500万円までしか減額されません。
資産があるのに、借金だけ減額するという都合の良いことは認められないということです。
この考え方は、住宅ローン特則を利用するうえで重要な意味を持ちます。
原則③ 住宅ローン特則の対象は住宅取得資金のための借入のみ
住宅ローン特則の対象になるのは「住宅取得資金」のための借入のみです。
単に不動産を担保にしていれば良いわけではありませんので、不動産担保ローンや自宅を担保にした借入は対象外です。
個人再生の住宅ローン特則が認められないケース
前述の原則に基づいて、具体的に個人再生の住宅ローン特則が適用できないケースを解説します。
そもそも個人再生の要件を満たしていない
当然ながら、住宅ローン特則以前に個人再生の要件を満たしていなければなりません。
個人再生を適用するためには、「継続的で安定した収入」などの要件がありますので、まずは最低限そこを満たしていることが前提です。
自宅に住宅ローン以外の抵当権や差押が入っている
住宅ローン特則が適用できない最も多いパターンは、自宅に住宅ローン以外の抵当権や差押が入ってしまっているケースです。
例えば、家を担保に不動産担保ローンや事業用融資を借りていたり、税金の滞納により役所から差押の登記がされてしまっているケースが該当します。
原則①に従えば、個人再生ではすべての債権者を平等に扱わなければなりません。
それを、例外的に住宅ローンのみ対象から外すことができるのが住宅ローン特則です。
しかし、残念ながら原則③の通り、住宅ローン特則が適用できるのはあくまでも「住宅取得資金」であって、不動産担保ローンや事業用融資などは家を買うための資金とはみなされず、これらの抵当権が付いている場合は家を残すことはできません。
住宅ローンが代位弁済されてしまっている
住宅ローンを一定期間(一般的には半年程度)滞納してしまうと、保証会社が付いている場合は保証会社が銀行へ一旦立て替えて全額返済をします。
これを「代位弁済」と言い、代位弁済がされると債権が保証会社に移り、返済先が保証会社に代わります。
そして、代位弁済がされてしまうと住宅ローン特則は認められなくなってしまいます。
ただし例外として、代位弁済されてから6か月以内に個人再生を裁判所へ申立た場合、代位弁済が取り消されて住宅ローン特則が認められます。
個人再生の申立には時間がかかりますので、できる限り返済が滞って代位弁済されてしまう前の早い段階から手を打つようにしましょう。
今の住宅ローンに前の家の住宅ローンの残債が組み込まれている
以前に住んでいた家から買い替えて今の家を買った場合において、以前住んでいた家を売却しても前の家の住宅ローンを完済できず、今のローンに上乗せしてローンを組んだというケースです。
これは非常にマニアックなケースなため弁護士でも見逃すことがあるほどで、実際に当社でもこのケースに該当した方から、「弁護士に相談したところ個人再生できるだろうと言われたが、裁判所に認められなかった」というご相談を過去2件ほどいただいてます。
なぜこのケースで認められないかというと、原則③の考え方が適用されるからです。
あくまでも住宅ローン特則の対象は「今の家の取得資金の借入」であり、「前の家の取得資金」は対象にはならないのです。
自宅の価値が残債と比較して高すぎる
自宅の資産価値(売却した場合の相場)が住宅ローン残高や債務額よりも高くなってしまうと、原則③の考え方が適用されてしまいます。
例1:家の評価額3000万円、住宅ローン残高2000万円、その他の借金500万円のケース
3000万円ー(2000万円+500万円)=500万円の資産超過となります。
あくまでも個人再生はプラスマイナス0までしか債務を圧縮できないため、このケースでは個人再生は適用できません。
要するに、家などの資産を処分すれば債務をすべて返せるのであればそうするべきであり、資産があるのに借金だけを減らすという都合の良いことは認められないということです。
例2:家の評価額3000万円、住宅ローン残高2800万円、その他の借金500万円のケース
3000万円ー(2800万円+500万円)=▲300万円の債務超過となるため、300万円までなら個人再生でその他の借金を減額できます。
※ただし住宅ローンをこれまで通り払いながら、さらにこの残った300万円を原則3年(例外として最長5年)で返済できるだけの収入があり、再生計画が裁判所で認可される必要があります。
例3:家の評価額3000万円、住宅ローン残高3000万円以上のケース
住宅ローンだけで債務超過のため、住宅ローン特則がそのまま適用できるケースです。
このケースでは、その他の借金については通常の個人再生と同様の減額幅で債務を減額できます。
そもそも住宅ローンがない
これも原則③の考え方が該当し、上記の例において住宅ローンの残高を0として考えられます。
つまり、自宅の評価額までしか借金の減額が認められないということです。
例4:家の評価額1000万円、住宅ローンなし、その他の借金500万円のケース
1000万円ー500万円=500万円の資産超過であるため、借金を減額することができません。
どうしても返済ができないのであれば、自宅を売って返すしかありませんので、このような場合はリースバックを活用した方が良いでしょう。
例5:家の評価額500万円、住宅ローンなし、その他の借金1000万円のケース
500万円ー1000万円=▲500万円の債務超過であるため、個人再生で500万円までであれば借金を減額できます。
ただし、例2と同様にそれを返済できる収入があり、再生計画が裁判所で認められる必要があります。
住宅ローン特則が使えなかったときに家を守るために取るべき道
では、住宅ローン特則が適用できなかった場合に、家を守るために他にどのような方法があるのでしょうか。
借金の返済方法を交渉する任意整理
任意整理とは、借金について緩和してもらえるよう各借入先と個別に返済条件を交渉する方法です。
通常は弁護士に依頼して交渉してもらうのが一般的です。
うまくいけば、利息をカットしてもらえたり、返済期間を延長してもらうことができ、月々の返済負担を軽減することが可能です。
ただし、ほとんどの場合は借金の額自体(元本)を減額することはできませんので、個人再生と比較してしまうと効果は限定的です。
家に住み続けながら売却するリースバック
リースバックとは、一度自宅を投資家や不動産会社などに売却したうえで、その家を賃貸として借りることでそのまま住み続けることができるという方法です。
リースバックを活用すれば、自宅を売却してその代金を住宅ローンや借金の返済に充てたうえで、賃料さえ払っていけば引越しをしなくて済むみます。
問題は、リースバックした際の家賃がどの程度になるかという点です。
リースバックで売却した代金で住宅ローンや借金を返済して、それまで払っていた月々の返済額よりも賃料を抑えられれば大きなメリットが出ます。
しかし、売却金額によって決まりますので、場合によっては家賃がその地域の賃料相場よりも大幅に割高になってしまう可能性もあります。
まとめ
個人再生の住宅ローン特則は、家を残したまま債務を整理できるため、どうしても今の家を守りたいという方にとっては理想的な方法に見えます。
しかし、本記事でご説明した通り非常に厳格な要件があるため、裁判所に申し立てても認められないということも珍しくありませんので、まずは専門家に早めに相談することをお勧めします。
また、根本的な話ですが住宅ローン特則を利用すると住宅ローン自体は減額されません。
収入が十分にある方は良いですが、他の借金を減額したとしても住宅ローンだけでも返済が苦しいという方は、個人再生後も結局は生活が苦しいままです。(そもそもそのような場合は裁判所が許可をしない可能性もあります)
専門家に相談しつつ、本当の意味で生活を立て直すために収入と支出のバランスを冷静に判断することが大切です。